粉と余白は、二〇一九年に蔵前の路地でひらいた小さなパン屋です。前は印刷所だったという建物で、床のコンクリートには昔の機械の跡がそのまま残っています。改装のときにその跡を消すかどうかで一週間ほど悩み、結局そのままにしました。店の名前の「余白」は、そのあたりの気分から来ています。

使っている小麦は国産のものが中心です。年によって、同じ農家さんの小麦でもタンパクの量や吸水が変わります。配合表を決め打ちにせず、朝いちばんに生地を少し触って、その日の水の量を決めるようにしています。数字にすると数パーセントの差ですが、焼き上がりのふくらみ方はずいぶん変わります。

ルヴァンは開店のときに起こしたものを、毎日つぎ足しながら使い続けています。夏は酸が出やすく、冬は動きが鈍い。生地が思うように上がらない日は、無理に時間を詰めず、その分だけ焼き上がりを遅らせます。お待たせしてしまうこともありますが、待ってから焼いたほうが、翌日食べたときの味が落ちにくいのです。

食事のパンを軸にしているのは、毎日食べるものだからです。バゲットは塩を控えめにして、和食のおかずにも寄り添う配合にしています。パン・ド・ミは全粒粉を二割ほど混ぜ、トーストしたときに香りが立つように。特別な日のためではなく、なんでもない日の食卓に置いてもらえるパンでありたいと思っています。

店の奥にはカウンターが四席あります。コーヒーは近所の焙煎所に頼んで、うちのパンに合わせて浅めに仕上げてもらったものです。朝の一時間だけ、常連の方が新聞を読みながら座っていることが多い席です。